
ホワイトランの宿屋「バナード・メア」のホールで一日のことを思い返すアニリン。
この日は彼女にとって人生の転機ともいえる、非常に慌ただしい一日であった。

朝早くにリバーウッドを発ったアニリンは昼前にはホワイトランに到着し、ホワイトランの王宮魔術師ファレンガーに、ブリーク・フォール墓地で入手したドラゴンストーンなる石板を届けにドラゴンズリーチへと登城した。
アニリン「こんにちはー、ドラゴンストーン持ってきましたー」
ファレンガー「恐らくは竜戦争の直後にまで遡る。とすれば、これを使ってその後の文書と名前を相互に参照出来る筈だ」
謎の女「良いわね、進展しているようで嬉しいわ。私の雇用者達も具体的な答えを望んでいるわ」
ファレンガーを訪ねたアニリンだったが、どうやら先客が居り、彼女には気付きもしない。
ファレンガー「ああ、恐れることはない。首長自身がついに関心を示したんだ。これで思う存分研究に没頭出来る」
謎の女「時間が無いのよ、ファレンガー。覚えておいて、架空の話をしているのではないの。ドラゴンが戻ってきたのよ」
ファレンガー「心配するな。生きたドラゴンを間近で見られれば実に価値あることとは思うが……」
アニリン「いや、命に関わるからやめといた方が良いと思うな……」

アニリン「死なずに、って……はい、これ」
ファレンガー「おおっ、ブリーク・フォール墓地のドラゴンストーン! お前は首長が寄越してくるいつもの役立たず共とは違うらしい」
アニリン「それはどうも。で、次は?」
ファレンガー「お前の仕事は終わった。ここからはこちらの仕事だ。精神に関してのな。残念ながら、スカイリムでは過小評価されているが」
アニリン「ああ、魔法ね。じゃあ、報酬は首長から受け取れば良いのかな」
ファレンガー「そうだな、そうしてくれ。また何かあったら頼むよ」
アニリン「うん、またね、ファエンダルさん」
ファレンガー「ファレンガーだ」
彼は直前まで話していた謎の女に向き直る。
そういえば先程からファレンガーと小難しい話をしていたこの女は一体何者だろうか。
ファレンガー「結局、お前の情報が正しかったな。入手出来たのは、ここに居る友のお陰だ」
謎の女「ブリーク・フォール墓地に行ってこれを手に入れたの? やるわね」
アニリン「いやぁ、それほどでも……ところで、」
イリレス「ファレンガー!」
アニリンの謎の女に対する質問は、研究室に飛び込んできたイリレスによって遮られた。

アニリン「うぇっ、ドラゴン?」
イリレス「ええ。あなたも来るべきよ」
ファレンガー「ドラゴン! それは素晴らしい! どこで目撃された? 何をしていたんだ?」
イリレス「いつものこととはいえ、もう少し真剣に受け止めた方が良いと思うけど」
アニリン(ああ、この人、変人なんだ……)
ドラゴンが目撃されたという情報に興奮した様子のファレンガーに冷ややかな視線を送りながら、イリレスに連れられ首長の下へと向かうアニリン。

階段の途中で疲れた様子の衛兵と合流し、バルグルーフ首長に面会する。
どうやらこの衛兵がドラゴンを目撃したらしい。

ホワイトラン衛兵「は……ドラゴンが南から来るのを見ました。速かった……今まで見たこともないくらいに」
バルグルーフ「何をしたんだ? 監視塔を攻撃しているのか?」
ホワイトラン衛兵「いえ、閣下。出てきた時には上空を回っていました。今まであれほど速く走ったことはありません……奴が後を追ってくると思ったのです」
バルグルーフ「そうか、よくやったぞ。ここからは俺達が動こう。お前は兵舎に入って、何か食べて休め。それだけのことをしてくれたよ」
アニリン(やさしい)
バルグルーフ「イリレス、何人か衛兵を集めて見に行ってくれ」
イリレス「既に正門前に集まるよう部下に指示しているわ」
バルグルーフ「よし。俺をがっかりさせるな。さて」



アニリン「そうですね、お役に立てるならば光栄です」
上っ面を装うこともアニリンの特技である。
ある時は帝都の浮浪者、ある時はスカイリム出身の傭兵、またある時はシロディールの貴族までもを演じた経験は、ここでは真面目で正義感の強い冒険者を彼女に演じさせていた。
バルグルーフ「勿論、ファレンガーの為に危険な墓地からドラゴンストーンを入手してきてくれた功労は忘れていない。感謝の印として、この街で土地を購入する許可を与える。アヴェニッチにはもう伝えてあるから、いつでも相談すると良い」
アニリン「ありがとうございます」
……無論のこと、それが即座に現金に繋がることは稀であるが。
取り敢えず落ち着かない宿屋暮らしは脱却出来そうかな、と前向きに考えるアニリンであった。
イリレス達に連れられ、西の監視塔にはすぐに辿り着いた。


アニリン「ほんとに酷いな。生きてる人居るのかな」

望み薄じゃないかと考えていたアニリンだったが、塔に近付くと、中に隠れていた衛兵を発見。
どうやら生存者は彼一人らしい。


空に響き渡る咆哮。
それがドラゴンのものであることは、この場の誰にとっても明らかなことであった。


アニリン「ん、ヘルゲンで見た奴と違う?」
ヘルゲンを襲ったドラゴンとは違う個体であることを気にしつつも、ドラゴンに斬りかかるアニリン。
妖刀「はたもんば」と、イリレスという実力者による攻撃には流石のドラゴンも耐えられず、戦いは短時間で終わった。
ミルムルニル「ドヴァキン、やめろーっ!!」
そんな断末魔と共に、息絶えるドラゴン。


アニリン「あいつドヴァキンって言ってたけど、何のことなんだろう」
死体を調べようと近づいたイリレスだったが、すぐに退避の指示を飛ばす。
なんと、ドラゴンの死体が燃え始めたのだ。
アニリン「うわっ!?」


ドラゴンの死体を包む炎が風となり、アニリンに吹き込む。
彼女はまるで自身に力が流れ込んでくるかのような感覚を得た。
ホワイトラン衛兵「なんということだ……アニリーネ、お前は……!」
アニリン「えっ、えっ、今の何??」

アニリン「ドラゴンボーン?」
ホワイトラン衛兵「知らないのか? お前もノルドだろう?」
アニリン「知らない。何それ?」
ホワイトラン衛兵「最も古い話は、まだスカイリムにドラゴンが居た頃まで遡る。ドラゴンボーンはドラゴンを殺し、その力を盗んでいたんだ」
アニリン「力を、盗む?」
ホワイトラン衛兵「ああ。ドラゴンの力を吸収したんだろう?」
アニリン「いや、自分に何が起こったのか、いまいち分かんない」
ホワイトラン衛兵「そうか? 古い伝説によれば、鍛錬せずにドラゴンのように叫べるのはドラゴンボーンだけだ。竜の血脈を宿して生まれし者……タイバー・セプティムのようにな」
アニリン「え、初代皇帝が?」
突然出てきた神――もとい帝国の初代皇帝の名に戸惑うアニリン。
彼女はスカイリムの辺境で生まれた、ただの盗人である。
父親は盗人であり、母親は詐欺師である。
なので彼女は自然と盗人と詐欺師の才能に目覚め、それ以外に生き方を知らない。
そんな盗人が英雄と同じ力の持ち主などとは到底信じられなかった。







アニリン「あ、ありがとう?」

アニリン「シャウト?」
ホワイトラン衛兵「ああ。叫んでみろ」
アニリン「叫べって……」
アニリン「Fus!!」
ブリーク・フォール墓地で奇妙な壁から得た謎の言葉。
アニリンは思い浮かんだそれを、それっぽく叫んでみた。
すると突風のような力が前方に射出されたではないか!


アニリン「なんと……私はドラゴンボーンだったのか……」
自分で自分の力を知らなかったとは、とアニリンは困惑していた。
そんな彼女を他所に、話は進む。

アニリン「分かった。じゃあ戻るね」
イリレス達と別れ、ホワイトランへと戻るアニリンだったが、正門近くまで来た時、突如として雷鳴が響き渡る。
「ドヴァキーン!!」

アニリン「えっ、な、何だろう、何だか私が呼ばれたような気がする……怖っ」
これまた何だか妙な感覚に戸惑いつつ、ドラゴンズリーチに登城。
この女、戸惑ってばかりである。


アニリン「監視塔は壊されちゃいました。でも、ドラゴンは倒しました」
バルグルーフ「イリレスが頼りになることは分かっていた。だが、この件にはそれ以上のことがあるに違いない」
アニリン「……えーと、それで、どうも私はドラゴンボーンなる存在らしいのですが」
バルグルーフ「ドラゴンボーン? ドラゴンボーンの何を知っているんだ?」
アニリン「よくは知りません。ただ、ドラゴンが死んだとき、何らかの力を私が吸収したみたいなんです」
バルグルーフ「それなら本当なんだな。グレイビアードは本当にお前を呼び出していたんだ」
バルグルーフも知っているようだし、フロンガルなる私兵(後で聞いたらバルグルーフの弟だそうだ)も知っているらしい。
ノルドの間では有名な言い伝えのようなので、ノルドなのに知らないアニリンは何だか恥ずかしくなってきた。
アニリン「グレイビアード、というのは?」


アニリン「聞いた……けど。それじゃ、世界のノドなんかから私を呼んだっていうの?」
雷鳴を聞いたのはホワイトランの正門の近く。
世界のノドといえばそこから遠くに見える、タムリエル最高峰ともいわれる高い高い山のことである。
そんなところから声を届けるなど、確かに常人ではない。





プロベンタス「勿論、軽蔑してるってわけじゃない。だが、それなら彼らは彼女に何を望んでるんだ?」
プロベンタスの言い分は尤もである。
アニリンにはグレイビアードなる声の達人集団に呼び出されてはいるが、何かを彼らに与えられるわけではない。
というか、勝手に何かを期待されたりしてもちょっと困る。
彼女はただの盗人なのだ。




バルグルーフ「ところで、アニリーネ。君にはもう一つ話がある」
アニリン「はい、何でしょう」

バルグルーフ「リディアを君の私兵として任命する。そしてこの斧が、君の役職を示す記章となる」
アニリン「あ、ありがとうございます。光栄です」
名誉ある従士の地位を与えられ、感謝の意を口にしながらアニリンは思った。
アニリン(これ、外堀埋められて囲い込まれてない?)


アニリンが城を出ようとすると、入口で女戦士が声を掛けてきた。
彼女がアニリンの私兵に任命されたリディアらしい。
アニリン「うん、よろしくお願いします。取り敢えず、酒場でも行こっか」

街を歩くと衛兵に出会う度に声を掛けられ、ドラゴンボーンだ従士だと言われて辟易しながらも、宿屋「バナード・メア」に入った二人。
アニリン「そんなに畏まらないで欲しいなぁ」
リディア「そうですか?」
アニリン「うん。私こういうかっちりしたの初めてだし、何だか苦手だからさ」
そんなことを話しながら二人で飲んでいた時である。
「たのもう!」

騒々しい挨拶と共に店内に入ってきた赤毛の女。
彼女は入ってくるなりアニリンとリディアを見つけると――
エセル「お前が噂のドラゴンボーンだな! 私はエセル! 治癒師をしている!」
登場と自己紹介の仕方もさることながら、アニリンはその内容に耳を疑った。
鎧を着込み、メイスを腰に提げ、手に盾を持つこの女、一瞬ノルドと見間違えたがどうやらブレトンらしい。
そんな、重装戦士にしか見えないこの女が、何故か治癒師を名乗っているのだ。
アニリン「そ、そう、よろしく、エセル。あ、私はアニリーネ。アニリンでいいわ」
エセル「そうか、よろしく、アニリン!」
アニリン「それで、その。何か用?」
エセル「ああ、用事は簡単だ。私もお前の旅に同行させてもらえないだろうか!」
アニリン「……はっ?」
次回へ続く。
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