手紙に書かれた「友」を訪ねる為、リバーウッドへ戻ってきたアニリン達。


エセル「ここで屋根裏部屋を借りろという話だったな」
アニリン「そうだね。屋根裏部屋があるようには見えないけど……」
兎も角、指定された宿屋「スリーピング・ジャイアント」に入って店主のデルフィンに声を掛ける。

アニリン「屋根裏部屋を借りたいんだけど」
デルフィン「屋根裏部屋? うちに屋根裏部屋はないの。代わりに左の部屋を使って良いわよ」
アニリン「ああ、そう。ありがと」
言われた通り、部屋に入ったアニリン。
寛いでいると、暫くしてデルフィンが部屋に入ってきた。

デルフィン「あなたが探しているのはこれでしょ?」
彼女はそう言うと装飾の施された角笛をアニリンに渡してきた。
どうやらこれがユルゲン・ウィンドコーラーの角笛らしい。
アニリン「これが……ふーん」
デルフィン「話があるの。ついてきて」
アニリン「ええ、こっちとしても話があるわ」
デルフィンについていくと、従業員の部屋のクローゼットの裏に隠し扉があり、そこから地下室へと降りて行った。

アニリン「『友』があなただったとは驚きよ」
デルフィン「ええ。ウステングラブにメモを残したのは私よ」
アニリン「それのお陰で、私はここに来るという手間を取る羽目になったわ。相応の用件があるんでしょうね?」
デルフィン「勿論、気まぐれに態々こんなことをしたんじゃないわ。サルモールの罠でないことを確かめる必要があったの」
アニリン「……」
デルフィン「私はあなたの敵じゃない。角笛は渡した。あなたを助けようとしているのよ。話を聞いて」
アニリン「……続けて?」
デルフィン「私はドラゴンボーンを……あなたを探している一団の者よ。ずっと探していたの。あなたが本当にドラゴンボーンなら、だけど」
アニリン「それを信じろと?」
デルフィン「私を信用出来ないというのなら、のこのこやってきたあなたが莫迦だったってことよ」
アニリン「易々とここに連れてきたあなたも似たようなもんでしょ。外にサルモールが待機してないって、どうして言えるわけ?」
エセル「あー、待て待て。ここに喧嘩しに来たわけじゃないんだぞ、アニリン」
アニリン「文句を言いに来たのは確かよ」
エセル「デルフィンと言ったかな。店主のあなたも、あまり煽らないでくれないか。彼女も、彼女の従者も、そして私も、あなたのお陰で振り回されてる」
デルフィン「……こういう手段を取った件については、悪かったわ。でも、あなた達を信用するにはこうするしかなかったの」
アニリン「ああ、そう。で? なんでドラゴンボーンを探してるの?」


デルフィン「出来るんでしょう? ドラゴンの魂を飲み込むことが」
アニリン「ええ。そのせいで私はドラゴンボーンだって分かったの」
デルフィン「すぐにそれを証明する機会がやってくるわよ」
アニリン「と言うと?」

デルフィン「長年どこかへ行ってたわけじゃない。死んでいたのよ。そして今、奴らの命を吹き返す何かが起きてる。それを止めて欲しいの」
アニリン「それがどうして分かるの?」
デルフィン「埋葬塚を見に行ったのだけど、墓はカラだったのよ」
アニリン「そこから這い出してきたってわけね」
デルフィン「ええ。それに、次のが復活するのがどこなのかも突き止めたわ」
アニリン「そう。どこに向かえば良い?」

エセル「これまた遠くだな。現地で落ち合うか?」
アニリン「それが良いかも。私達は先にハイ・フロスガーにも行かなきゃならないし」
デルフィン「グレイビアードに用事?」
アニリン「あんたが持ち出した角笛を渡すのよ。知ってるでしょ」
デルフィン「……分かったわ。それじゃ、現地で落ち合いましょう」
アニリン「決まりね」
デルフィンが支度をしている間に、アニリン達は外へ。

エセル「アニリン。あの、デルフィンという女だが」
アニリン「彼女が何か?」
エセル「私の見立てが正しければ、彼女は恐らくブレイズの生き残りだ」
アニリン「ブレイズ? 壊滅したのは私が生まれる前の話よ?」
かつて皇帝直属の親衛隊としてブレイズという組織が存在したのは有名な話だ。
しかし、この組織はサルモールから目の敵にされている節があり、アルドメリ自治領で活動していた構成員100名の首が皇帝に送り付けられる(この事件は大戦の始まりの合図ともなった)等の大損害を蒙り、大戦の結果、白金協定によって解散している。
その後もサルモールは執拗にブレイズ狩りを続けているとも言われており、アニリンは面倒事のにおいを嗅ぎ取った。
アニリン「サルモールとのいざこざに巻き込まれたくはないんだけど……」

入手したユルゲン・ウィンドコーラーの角笛を見せる為、再びハイ・フロスガーへやってきたアニリン達。


アーンゲール「お前をドラゴンボーンとして正式に認める時が来た」
アニリン「ほんと?」
アーンゲール「ああ。ウルフガー師から揺るぎ無き力の最後の言葉『Dah』を教わるのだ。『押す』という意味だ」
アニリン「これが最後なのね」
アーンゲール「ああ。これで3つの言葉が揃い、シャウトは更に強力になった。注意して使うように」
アニリン「うん、気を付ける」



アニリン「覚悟……覚悟? は、はい」
取り敢えず言われた通り、身構えてみるアニリン。
グレイビアードの面々が言葉を発する。

アニリン「うっ……!?」



アニリン「あ、ありがとうございました」
何だったのかはよく分からなかったが、取り敢えずグレイビアードの修行を終えたことだけは分かったアニリン。
カイネスグローブへ向かわねばならないのは承知だが、一先ずホワイトランに帰ることにした。

アニリン「何だか色々あって混乱してきちゃうなぁ……」
ハンマーフェルから国境を越えてスカイリムに戻った途端に処刑されかけたり、それがドラゴンの襲撃で有耶無耶になったり、自分がドラゴンボーンなどという大層な存在であることが判明したり、その件で修業を受けさせられたり、暗殺者を差し向けられたり。
今度は皇帝直属の親衛隊の生き残りから接触を受けて、ドラゴンを殺しに行くことになった。
それがたった数日の出来事だったので、正直なところアニリンは疲れ切っていた。

アニリン「数日前の私が見たら信じらんないんじゃないかな、こんな生活してるって」
城壁で囲われた街の中に家を持ち、そこで寛ぐというのはこれまでの彼女の人生では考えられないことだった。
無論、かつて実家は存在したし、シロディールやハンマーフェルで家を借りた時期はある。
だが、このホワイトランの家はこれまで彼女が生活したどんな家よりも豪華で、快適だった。
リディア「従士様。そろそろ寝ましょう。明日も早いですよ」
アニリン「はーい」
そうして翌朝。

アニリン「ウィンドヘルムまで、大人3人」
ジョーラム「分かった。後ろに乗ってくれ、すぐに出発だ」

カイネスグローブはウィンドヘルムの近くの村であり、馬車で行くにはウィンドヘルムに立ち寄るしかない。
ウルフリック・ストームクロークの帰還により内戦は再開されたが、アニリン達には関係のない話だ。
しかし、そこはストームクロークの本拠地。
到着するなり、アニリン達はその片鱗を目の当たりにすることになった。



スヴァリス・アセロン「帝国のスパイ? 冗談じゃないわ!」
ロルフ「おい、スパイ。今夜訪ねて行くかもしれんぞ。お前の正体を暴く方法などいくらでもある」

アニリン「来て早々これかぁ」
スヴァリス・アセロン「……何? あなたもダークエルフが嫌いなの? ダークエルフを痛めつけて追い出す為にやってきたってわけ?」
アニリン「いいえ、まさか。別に嫌いじゃないですよ」
スヴァリス・アセロン「じゃあ、間違った街に来てしまったわね。ウィンドヘルムは偏見と狭量な奴らの温床よ。あなたみたいな温厚なノルドには相応しくないわ」
アニリン「温厚なノルドはノルドじゃないよ。彼らはなんであなたをスパイだなんて言うの?」
スヴァリス・アセロン「ダークエルフを侮辱しようとして、ノルドの誰かがでっち上げた口実よ」
エセル「まぁ、この街のノルドにしてみればダークエルフもアルゴニアンも余所者だろう。それがスパイ呼ばわりを許される理由にはならないが」
スヴァリス・アセロン「今に始まったことじゃないの。ウィンドヘルムに住む大半のノルドは、ダークエルフなんてどうでもいいと思ってる。中でもロルフは間違いなく最悪ね」
エセル「さっきの男達のどちらかか」
スヴァリス・アセロン「ええ、そうよ。奴は酔っ払って、夜明け前に私達の侮辱を叫びながら灰色地区を歩き回るのが好きなの。ああいうのを本物の邪術師っていうのよね」
アニリン「同胞が申し訳ないわ」
スヴァリス・アセロン「いいのよ、別にあなたは悪くないもの」


ウィンドヘルムで一泊し、翌朝。

アニリン「ここがカイネスグローブ……何もないとこだね……ん?」
前方から誰かが走ってくることに気付き、足を止めるアニリン達。

アニリン「ドラゴン?」
エセル「村を襲っているのか?」
イドラ「いえ……分かりません。ただ、村の上空を飛んでるんです!」
エセル「分かった、ありがとう」
アニリン「間に合わなかったかな」
リディア「分かりません。でも、急いだ方がよろしいかと」

アニリン「……あいつ」
エセル「どうした?」
アニリン「ドラゴンが見えた。あの黒い奴、ヘルゲンを襲った奴だ」

アニリン「あっ、デルフィンさん」
デルフィン「間に合わなかったようね。奴はもう来てるわ」

エセル「何だ……?」
アニリン「地面から……這い出してきた?」





デルフィン「行くわよ!」
ドラゴンのサーロクニルが飛び立つと、デルフィンが弓矢を構えて攻撃を始める。
その間に、黒いドラゴンは飛び去って行った。


アニリン「下りた! 斬りかかるよ!」
リディア「了解!」

デルフィンも居た為、サーロクニルは本調子になる前にその命を再び落とした。

アニリン「……おっ」




アニリン「そうだよ。不本意だけどね」

デルフィン「さあ、どうぞ。なんでも聞いて」
アニリン「じゃあ聞くわ。あんたは結局何者なの?」
デルフィン「私は、ブレイズの最後の一員よ」
アニリン「何をするつもりなわけ?」
デルフィン「その昔、ブレイズはドラゴンスレイヤーだったの。そして、最も偉大なドラゴンスレイヤーであるドラゴンボーンに仕えていた」
エセル「それが皇帝の血筋だろう。今の皇帝に仕えるのはやめたのか?」
デルフィン「……200年前、当時の皇帝が最後のドラゴンボーンだった」
エセル「オブリビオンの動乱か」
デルフィン「ええ。あれ以来、ブレイズはその存在意義を探し求めてきたの。そして今、ドラゴンの復活で私達の存在意義は再び明確なものとなった」
アニリン「ドラゴンを殺して回るってわけね。ドラゴンの復活について何か知ってるの?」
デルフィン「何一つ。目の前に巨大な黒いドラゴンが現れて、私も驚いているの」
アニリン「あの逃げた黒い奴は前に見たことがあるわ」
デルフィン「本当? 一体どこで?」
アニリン「ウルフリック・ストームクロークが逃げ出した時、ヘルゲンを襲った奴よ」
デルフィン「そうなの……同じドラゴンが」

アニリン「そうね、黒幕が居るのなら。次はどうする?」
デルフィン「まずはドラゴンを操っているのは誰なのかを探り出す必要があるわ」
アニリン「目星はついてる?」
デルフィン「サルモールが一番の手掛かりよ。直接関わっていなくても、黒幕について知ってる筈だわ」
アニリン「サルモール? なんでサルモールがドラゴンを復活させていると?」
デルフィン「確証はないわ。まだね。でも、それ以外は考えられないの」
エセル「流石に疑心暗鬼が過ぎないか?」
デルフィン「帝国がウルフリックを捕らえた。内戦は終わったも同然だったのに、ドラゴンが攻撃を仕掛けてウルフリックは逃亡し、内戦がまた始まった。ドラゴンは至る所を攻撃してる。スカイリムは衰弱し、帝国は弱体化しつつあるわ」
エセル「この状況はサルモールが一番得をする、ということか」
デルフィン「ええ、そういうことよ」
アニリン「じゃあ、仮にそうだとして、サルモールがドラゴンの何を知っているのか、どうやって調べるの?」
デルフィン「サルモール大使館に忍び込むことが出来れば……あそこはスカイリムにおける奴らの活動拠点よ」
エセル「あそこに忍び込むのは無理筋だぞ。あそこの家主は相当な被害妄想癖の持ち主だな。それこそドラゴンでも借りてきた方が良い」
アニリン「で、どうやってその大使館に忍び込む?」
デルフィン「分からない。いくつか案はあるけど、情報を整理する時間が必要ね」


アニリン「分かった。じゃあ、またリバーウッドで」

次回へ続く。
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